コラム

産業界を取り巻く環境の変化に対応するためAI・IoTツールをどう活用するか

2020.03.07

どんな未来が来るのか

近い将来、AIやIoTが生活がどのように変わるのか、2つほどケースを考えてみました。

生活

まずは普段の生活はどのように変わるでしょうか?

皆さんのご自宅にはGoogleスピーカー等のスマートスピーカーはありますか?私の家には Google スピーカーがあって、「Ok Google テレビをつけて」というと、テレビをつけてくれるし、料理をしながら濡れた手でキッチンタイマーを操作しなくても「Ok Google タイマー10分」と言うと10分間のタイマーをセットしてくれます。他にも現在の時間を聞いたり、お店を探してもらったり、声を認識していろんなことをしてくれます。
今のところは質問に答えてくれたり、せいぜい身の回りのものを動かしてくれるくらいの範囲で使える程度ですが、今後IoTデバイスや様々なサービスがネットでつながり、スマートスピーカーで操作したりサービスを受けられるようになると世の中はもっと便利になります。
スマートスピーカーに「今夜ハンバーガーを作るから準備して!」というと、スマートスピーカーはネットにつながっているスマート冷蔵庫に指示を出して中身を確認します。冷蔵庫はひき肉の在庫がないことを検出してスーパーに自動発注します。
スーパーから自動運転の配送車がひき肉とワインを運んできました。ワインは定額のサービスを契約しており定期的に送られてきます。今回は AI ソムリエが肉料理に合うイタリアのワインを選んでくれました。もちろん代金は自動決済です。
このように人間が話すだけでAIとIoTそして様々なサービスが連携してユーザーにモノやサービスを届けます。ユーザーは自分がやりたい料理の部分だけをやればよく、冷蔵庫の中を確認したり、レシピを検索したり、買い物に行ったりする手間が省けます。

健康

働き方改革によって自宅の近くにあるサテライトオフィスで仕事ができるようになると、運動不足で大変なことになってしまいます。私も会社を退職して自宅をベースに仕事をするようになってから、急に体重が増えて血圧も上がってしまいました。これからは定年延長もあるでしょうから、長く元気で働くためにも健康管理は重要になってきます。

近い未来の家庭では、スマートウォッチとトイレの床に埋め込まれた体重計が体調管理をしています。今私が着けているスマートウォッチは脈拍や睡眠の状態、運動量など様々なデーターを自動で測定してくれます。このデータをスマホと連携することでいろんなアドバイスをしてくれますが、近い将来は様々なサービスと連携し、AIを使った健康改善サービスがその人の状態に合ったアドバイスをしてくれるようになります。
先週は睡眠の質が良くなかったためジムで軽いトレーニングを行うように進められました。スマートウォッチにジムに行く日時を伝えると、AIは自動でトレーニングプログラムを作成し、トレーニングマシンにプログラムを転送しました。
ジムに行くと、ウエイトとランニングのスピードが設定されており、プログラム通りにトレーニングを行いました。
このように普段の健康管理、高齢者の見守り等個人向けサービスはもちろんですが、全ての人のデータを集めてそのビッグデータを統計処理すると、今までに無かった新しいサービスが出現するかもしれません。

IoT&AI&5G

ここまで説明してきたことは、どのような仕組みで実現しているのでしょうか?

まずはIoTです。これはモノのインターネットです。この図にあるような車や冷蔵庫、スマートウォッチやロボットに内蔵されたセンサーがネットワークにつながります。今までネットワークにつながっていないようなものがどんどんつながりますので、やりとりされるデータは膨大なものになります。
従来のように、集められた情報をプログラムが処理し人が分析していたのでは、情報が膨大すぎてタイムリーにサービスを適用できなくなってしまいます。このような膨大な情報の処理にはAIが最適です。AIは既に蓄積されたたくさんの情報で機械学習し、結果を予測することができます。学習するデータが多ければ多いほど精度が向上します。
今までとは桁違いの数のIoTデバイスから上がってくる情報を処理するには、AIは必須の機能と言えます。こうして、AIが様々なサービスを提供していきます。
この原稿も半分くらいはGoogleDocsの音声入力を使って書いていますが、AIによる変換はかなり高精度で、とても便利です。
そして、このような大量の情報をネットワークに流して処理するにはもう一つ欠かせないテクノロジがあります。それは、高速なインターネット回線です。特にワイヤレス回線は欠かせません。たくさんのIoTデバイスの中にはワイヤレスで接続されるものが多くなります。例えば自動運転のクルマなどはワイヤレスが必須です。
今年からサービスが開始される5Gは現在の4G回線の100倍以上のスピードでデータを処理できると言われており、AI&IoTによる世の中の変化を加速させるでしょう。

IoT&AIを導入するうえで重要なこと

このように近い将来確実に私たちの身近な存在となるIoTとAIですが、自分たちのビジネスに導入するときに注意しなけらばならないことがあります。

それはIoTやAIは何かの課題を解決するための手段であって、IoTやAIを導入することを目的にシステムを新規に構築したり、既存のシステムを変更するのは危険だということです。
経営者が「うちも、AIやIoTを導入するぞ!」と言って、情報システム担当が一般的なパッケージシステムを導入したものの、業務を自動化するための設定作業が増えたり、システムの導入コストに見合うような効果が出なかったり、せっかく導入した新しいシステムが力を発揮できない、というようになってしまいます。AIやIoTを導入するにあたっては、まず最初にどんな課題を解決するのかということを明確にし、課題を解決するために必要なシステムにカスタマイズしなければ意味がありません。
品質、技術、コスト、納期、生産性、経営他にも様々な課題があると思います。まず最初にどんな課題を解決したいのかということを明確にして下さい。

産業界を取り巻く環境の変化

AIやIoTを導入する際には、まず解決すべき課題を明確にすると言いました。では、今の産業界を取り巻く環境の変化ということを考えた時に、どのようなことが課題として起こっているかを考えてみましょう。
今起こっていることをここに三つほど例を挙げました。

一つ目は国内製造業の衰退です。パソコンや携帯電話等の工業製品の製造に関して、中国や韓国などの新興国は急成長したことにより国内製造企業の収益が悪化します。今やパソコンは NEC や富士通までもが Lenovo に吸収され、携帯電話も中国のファーウェイや韓国のサムスンが大きなシェアを取っています。数年前までは日本の携帯電話も最新の機能を搭載し、国内の企業でも多くの企業が参入していましたが、今では統廃合が進んで規模がだいぶ小さくなってしまいました。
二つ目は新興国の製造業の急成長したことです。新興国の製造業の急成長によりグローバルなレベルで分業化がすすみました。その結果国内産業が空洞化し、製造のノウハウや設計の技術が継承されないという状況になっています。特に半導体技術者は、日本の半導体産業は完全に衰退によりリストラの対象となり多くの技術者が半導体企業を去りました。しかしグローバルで見れば半導体産業が盛んな国もあり、例えば台湾等ではリストラされた日本の半導体技術者を高い給料を払って雇い技術力を高めています。このように、これまで培ってきた日本の半導体技術はどんどん海外に流出しているのです。たぶん、日本は半導体で世界の上位に返り咲くことはもう難しいでしょう。
三つ目は深刻な人材不足です。2012年のリーマンショック以降経済は回復傾向にありますが、生産年齢人口の減少、終身雇用の崩壊、人件費高騰などにより必要な人材確保が困難となっています。今後少子高齢化がさらに進んでくると人材不足はさらに深刻な状況になると思われます。日本は移民を受け入れにくい社会風土、土地柄もありますのでなかなか人の人材不足は解消されないでしょう。
このような数々の課題を解決するにあたり、IoTやAIは大きな力を発揮するかもしれません。

変化に対応するために

これらの変化に対応するため産業界ではどのようなことが必要になるかということも考えてみましょう。
私が富士通に在籍しているときに、スマートモノづくり基盤を構築するというプロジェクトに参加したことがあります。

このスマートなモノづくり基盤にはデータを貯めておく大容量のファイルサーバーと様々なサービスが含まれています。製造業専門のクラウドサービスと言ってもよいかもしれません。このスマートなモノづくり基盤に様々な企業や情報、センサーやロボットがつながっており、お客様からオーダーが入ると、設計情報、調達情報、工場のスケジュール等と連携して生産計画が行われ、実際に調達した部品を使って製造を実行し、製品を出荷します。
大量の情報をAIが処理し、実際にモノを動かすこともかなりの部分が無人化されることで、工場が自律的にモノづくりできるようになれば、まずは人手不足に対応することは出来るようになります。また、この分野で日本が世界に先駆けて技術を確立すれば、良いものを早く安く提供できるようになるので、技術大国に返り咲くことが出来るかもしれません。

第四次産業革命でどう変わるか

今の話をもう少しわかりやすく説明します。

あなたが移動スピードの速いジェットドローンを作って売りたいというふうに考えたとします。 AI マーケティングに製品の適正価格と予想販売個数を聞いてみると、50万円なら2000個売れると回答がありました。この回答を受けてあなたはクラウドファンディングで資金を調達します。ジェットドローンを50万円で2000個募集すると、最終的に10億円の資金を調達することができました。
あなたはジェットドローンの設計から製造、発送までをスマートファクトリーに企画書を送って依頼します。スマートファクトリーは設計、部品調達、製造現場、物流に状況を確認し、5月10日までに発送可能という回答を返しました。
あなたがスマートファクトリーに正式にジェットドローンを発注すると、スマートファクトリーは製造の準備に取り掛かりました。まず最初に設計者にエンジンとドローン本体の設計を依頼します。AI エンジニアが小型ジェットエンジンと大型のドローンの設計図を設計ライブラリから取り寄せ、設計者と一緒になって設計図を作成しました。耐久性やエンジン出力、空気抵抗などを AI エンジニアが計算し、飛行シミュレーションをVRで行い、設計検証まで完了します。
次にAI 調達が設計図をもとに部品を部品メーカーに発注します。製造 AI は部品の納入スケジュールに合わせて生産計画を作成し、加工機やロボットに設定データをあらかじめ送ります。部品が納入されると自動的に製造が開始され、梱包された製品が物流センターに到着します。物流センターからは自動配送車がお客様まで製品を運びます 、予定通りに製品が出荷されたことをあなたに報告します。
そのようなことが近い将来起こると言われています。こうなってくると企業の形ももしかしたら今と変わって、アイディアを持っている個人が製品を企画し、工場はモノづくりに専念する。そうすることで、今までにない新しい製品がどんどん世の中に出てきて、便利さが加速してきます。

製造業におけるIoT&AIの活用


スマートなモノづくり基盤の中身としては、図のようなインプットがあり統計手法やAIの機能によって様々なアウトプットが出てきます。センサーから収集される設備情報、生産実績等現場の情報と、部品ベンダーや図面管理システム、関連システム等にある設計情報、部品情報、生産計画等の情報がインプットとなります。これらの膨大な情報を統計手法やAIによるシミュレーションを使って分析を行い、部品発注や設計の外部委託を行ったり、生産準備情報を作成したりします。そして、加工機やロボットなどの生産設備を使って生産を実行します。また、生産実績情報から設備管理による予防保全や品質管理による品質向上を常に行います。
ここでも、今まで人が行っていた作業を、単純作業ばかりではなく、経験や知識が必要な作業も含めてスマートなモノづくり基盤が行ってくれます。

日本における国家的取り組み

このような活動は国家的な取り組みとしてコネクテッドインダストリーという考えのもと、政府主導で現在動いています。

コネクテッドインダストリーはここに書いてある5つの分野がありますが、ここまでお話してきたのは2の「ものづくり・ロボティクス」の分野になります。
まずは、人と機械と技術がつながり、AIやIoTの活用によりこれまで人が行っていた様々な情報処理が高速化されると同時に、ロボットや設備の高度化により製造現場も自動化が進みます。このような生産性の向上により人手不足が解決し、余剰となった人材を企画開発や営業等に活用することにより、新たなビジネスの機会を創出できます。
そして、外部の企業や産業全体、国家規模のデータ連携ができるようになると、更にものづくりの形は大きく変わっていきます。
前出のスマートファクトリーの事例のように、個人のアイディアを活かした製品やユーザーが極端に限定されるニッチな商品でも製品化が実現し、どんどん新しい製品が生み出されることで様々な課題が軽決されていきます。
ここでいう課題とは、個人的な小さな課題から環境問題などの社会的な課題まで様々です。このようなことが国家レベルで考えられているのです。

第四次産業革命で発生するリスク

ここまでは第4次産業革命の良い点をお話ししてきましたが、考えなければいけないリスクというものもあります。
ここでは3つのリスクを挙げて説明しています。

一つ目は情報セキュリティの不安です。
これまでのシステムはログインIDとパスワードで個人に対してデータアクセスの権限を与えていました。しかし企業や国家を超えたデータ連携が進むと、データ単位でアクセス権限を設定する必要が出てきます。例えばある製品の販売価格の情報には外部からのアクセスを許可するが、原価データや売上データーにはアクセスを許可しない、というような権限設定が必要になるかもしれません。
二つ目は IoT AI 技術者の不足です。
AIやIoTが急激に広がると、社内の人材育成が間に合わず、また採用するにも技術者に対するニーズが高くなかなか採用できないといったことが起こります。技術者の育成は今後大きな課題となりますので、今から準備を進めておく必要があります。
3番目には雇用が維持できないことです。
事務作業や工場の現場作業をAIやロボットが行うようになると、省人化が進み余剰人員が出てきます。余剰人員を新製品開発や営業、新規ビジネスの立ち上げ等、今後のビジネスのビジョンを作って計画的に人材育成、配置転換を行う必要があります。何もしないでいると、システムを導入した瞬間多くの人が仕事を失ってしまいます。
このように第4次産業革命によって起こるリスクというのも予め考えておかなければいけません。

Society 5.0につなげていくこと

政府は第4次産業革命からさらに発展させて society 5.0という活動にシフトしています。

Society 5.0はここまでお話ししてきたように AI や IoT その他にも VR や5G など最新のテクノロジーが今までにない製品をどんどん生み出し様々な社会問題を解決していくという新しい社会です。
これは産業界のみにあらず広い分野でこのような革新が起こります。そしてこのような新しい社会はもうすぐそこまできています。私たちはこのような変化についていけなくなればあっという間にグローバルな競争に負けて取り残されてしまいます。これをピンチと考えるのではなくチャンスと考え、今から準備を始めて積極的に推進していくことが必要です。

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